Vol.2/4
住宅の作り手として
経営者
中条和豊さん|株式会社高松ハウジング 代表取締役

これまでと、これからの建築業
三谷
今回は、実際に工務店での働き方について色々とお話を聞かせてください。私は技術系の大学出身で、大学にゼネコンなどいろんな会社から就職の斡旋がきていましたが、一般的にどういうルートでこの職業に就くんでしょうか。
中条
今はたぶん、求人しても人がなかなか集まらない業界だと思います。通常ならば、新卒採用であれば会社説明会とか、職安などを通じて求人募集をすると思いますが、私どもの会社の場合は、どちらかというと紹介がほとんどです。
三谷
知り合いの若い子が仕事を探しているよとか、そういう紹介がくるんですか?
中条
そうですね。たとえば今入っている社員は、知り合いの工務店の社長から、大工になりたいという人がいるということで紹介されました。その工務店も後継ぎの息子さんがいないので、他の工務店さんを探して聞いてみてあげようということで紹介していただいて、高校を卒業してすぐにうちに入社しました。あとは、他の業種の職人さんから大工職になるパターンもありますし、建築の仕事に興味があって、別の業種から転職してくるパターンもあります。それもほとんどが紹介ですね。
三谷
全然関係のない業種からも来たりするんですか?建築のことがまったくわかってない感じの人とか・・・
中条
そうですね。ありますよ。
三谷
ういう方は、現場で仕事する大工さんになりたいという方なのでしょうか?それとも大工ではなく、他の建築関係の仕事に携わりたいという感じですか?
中条
私どものところはどちらかというと、大工になりたいということで来る人が多いですね。ただ、ご存じの通り、この業界というのは大変な仕事で、夏は暑いし、体力的にもかなりしんどい仕事なので、何人も入ってきては、何ヵ月かすると辞めていく。来ては辞めての繰り返しで、がんばって残れる子がそこから何人か出てくる感じです。だから、人が欲しいと言っても、なかなかすぐに入れられるような業界ではないと思いますね。何人も辞めていく中で、いい子は残っていくという形です。
三谷
やっぱり厳しい仕事なんですね。
中条
たぶん想像していた以上に、現場に出ると大変だと感じるんでしょうね。
三谷
気候の話もありましたが、立っているだけでも暑い時や、冬は寒い中で仕事をしますので、やはり現実的になかなか続かないですか。
中条
そうですね。残念なことですが、実際は続かない子の方が多いです。
三谷
それは時代とは関係なく、昔からそういう大変な仕事だから。という部分も関係していると感じますか?
中条
たとえば私どもの父親の代は、たぶんそんなに辞めていなかったと思います。やはり時代というのも多少あるかもしれません。今はいろいろな業種が幅広くありますので、たとえばアルバイトを探す学生さんを例をとってみても、楽な、と言うと少し語弊があるかもしれませんが、体力的にきつくないアルバイトもあれば、大繁盛している居酒屋のような大変な仕事もありますよね。アルバイトの時も選択肢がたくさんあって、正社員の仕事に関しても、たぶん選択肢はたくさんあるので、意外と辞めやすいし転職しやすいというのは、やはり時代じゃないかなと思います。
三谷
大工さんに限らず、そのあたりはどこも一緒ですね。
中条
そうですね。どの業界も一緒だと思いますよ。
三谷
も、本当に大事な住宅とか、高額なお金を払っていただく建物に携わるという誇り高い仕事ですから、残っている方というのは、この仕事にすごく誇りをもって働いていると思います。
中条
の仕事がまあまあ好きで、なおかつ体力的もどうにか頑張ってやっていけるという、その両方がないとなかなか難しいでしょうね。やりたいと思っていても、体力がないと厳しいところがあるでしょうから。
”作り手”として成長するために
三谷
社長のところでは、図面を描くなどの内勤の仕事は少ないのですか?
中条
少なくはないですが、今のところ私がやって、どうにかなっている状態です。
三谷
なるほど。たとえば大工の仕事をしながら、もっと職種を広げたいということで、設計のような仕事をしたいという人もいますか?
中条
私どもの社員ではいませんが、実際は、両方やりたいという方は絶対いると思います。なおかつ、将来は独立したいと考えている方も結構いると思いますね。
三谷
そういう方はきっと目的意識もあるので、最初は大変でも、現場でいろんなことを覚えて、少しずつキャリアアップしていくんでしょう。
中条
ただ、なかなか大変なことだと思いますね。独立しても、どこかのハウスメーカーの工事を請け負うだけの仕事に従事している方がほとんどです。やはり現場の仕事もしながら図面を描いて、一見さんのお客さんから仕事を取れるようになるのは、並大抵の努力では難しいです。
三谷
営業活動もありますからね。職人さんや建築の仕事の技術者というのは、経験年数がスキルにとても大きく影響するイメージがありますが、やはりそうですか?
中条
資格よりは経験でしょうね。たとえば一級建築士の資格を持っていても、建築の現場を全然知らない方はたくさんいらっしゃいます。それよりは、いろいろな経験をされている職人さんの方が、現場の対応の知識としては豊富ですし、当然、年配の職人さんの方が知識も経験も豊富です。これは非常に大事なことだと思います。ただ、若い大工さんの中には、ハウスメーカーなどの新築の仕事ばかり追いかけている方が結構いらっしゃるんです。そういう方は、たとえば在来の住宅のリフォームができるかというと、できない方がかなり多いんですね。なので、これからの時代は、そういう仕事を経験できる職人さんがますます必要になってくると思います。
三谷
住宅もだんだん工業化されてきて、昔のように金槌でトントン叩いて、鉋で削って、という仕事が減ってきていると聞きますが、若い方は今、なかなかそれができないんですね。
中条
そうですね。だから仕方ないことではあるんですが、一人前の大工さんになったと言っても、新築しかできないのであれば、本当に大工さんなのか、というのはやはりあります。そういう経験を積む場が本当に少なくなってきています。
三谷
スキルを身に付け、技術を身に付けていくというのも年数がかかりますし、自分でチャンスをつかんでいって、いろんな経験をしていくという能動的な動きがないと、幅広くいろんなことを経験するチャンスが逆に減ってしまう時代になっていますね。
中条
減ってきていると思います。なおかつ、修行時代にどういうところに入るかも大きく影響してくると思いますね。当然、親方というか、どこかの工務店なり、大工さんの下に付くんでしょうけれど、その親方の大工さんがどういう仕事をしているかによって当然違います。それこそ新築しかしていない大工さんであれば、その下に付けば同じような職人さんになるでしょうし、はたまた私どものように、はっきり言ってなんでもやらせる会社、やれることは自社でやってしまいますので、他と比べていろいろな経験が多少多く積める会社に入るかどうかによっても、後々の自分のスキルは変わってくると思います。
三谷
就職する時は若くて、そこまでわかっていないですから、このお話をもし聞いた方がいらっしゃったら、そういうことを気にしながら就職先を探した方がいいですね。
中条
その方がいいと思います。もしくは、言い方は悪いですが、同じ工務店でも、たとえば木造から鉄骨をメインにしている工務店に転職してみたり、はたまたリフォーム専門の会社に行ってみるというのは、自分のスキルアップに非常にプラスになると思います。一つの会社でいろいろなことをやれるのが本当は一番いいんでしょうけれど・・。
三谷
目的をもってやるか、やらないかで、技術力の差も大きく変わってくるし、経験値の差も変わってくる。ということですね。
中条
そうですね。一人前になる年数も変わってきます。
次回は中条社長だからこそ語ることができる、建築業の素晴らしさについての対談をご紹介させていただきます。どうぞご期待ください!
取材・文:藤井まどか|株式会社プラザセレクト
GUEST PROFILE

中条和豊|経営者|株式会社高松ハウジング
昭和45年、香川県生まれ。地元の酒店に就職し、営業や社会人としての基礎スキルを学んだ後、祖父の代から続く実家の「株式会社高松ハウジング」に勤務する。自身も職人として現場に出つつ、平成9年からは取締役として経営にも従事するように。代表取締役に就任した今でも変わらず現場の様子を見に行くなど、「現場の大切さ」を忘れない経営に徹している。
「SHIGOTOにある」とは、様々な業種の第一線で活躍するプロフェッショナルの人たちとの対談を通じ、その仕事にある新しい世界を知るコンテンツです。
Interviewer

株式会社プラザセレクト
株式会社プラザセレクトワークス 代表取締役
三谷 浩之
1979年香川県高松市生まれ。日本大学理工学部卒業。大学卒業後に入社した総合建築業で建築不動産ノウハウを学ぶ。 その後、四国の地場有力建築会社を経て2015年に独立。地域を豊かにする「生活総合支援企業」を創ることを目的に株式会社プラザセレクトを創業。 現在は徳島・香川という地方エリアでシンプルなデザイン住宅の販売、投資用住宅の提案販売の事業を展開。 「Be Smile にこっを集めよう!」をスローガンに理念を重視した経営を行っている。代表著書に自身の新人時代からの仕事観を綴った「楽しく生きよう!よく遊びよく働け 想いを形にする仕事術」がある。